【書評】死体とご遺体(夫婦湯灌師と4000体の出会い)

【書評】死体とご遺体(夫婦湯灌師と4000体の出会い)

死体とご遺体 夫婦湯灌師と4000体の出会い (平凡社新書)

 

序章 四十九歳の誕生日、私は初めて遺体を洗った/第1章 CM制作会社社長から湯潅師へ/第2章 湯潅サービスを起業する/第3章 記憶に残る特別なご遺体/第4章 妻は語る/第5章 四千体の手応えと、来し方行く末

 

著者は異色の経歴で、CM製作会社としても成功を収めていました。しかし、不況のアオリを受け、会社は倒産。大きな借金を背負う身となりました。なんとか、生きていくために、入浴サービスの仕事を始め、やがてもっと実入りの良い(収入面)仕事として、遺体の入浴、つまり「湯灌」を始めます。

 

「遺体は、文句を言わないし、もう死ぬこともない」

 

という、若干不気味とも思えるくらいの、ビジネスライクな考えで著者は湯灌業者となっていきます。独立をするタイミングで、奥様をパートナーとし、本のタイトルにもあるように「夫婦湯灌師」となります。興味深いのは、あまりにもドライな文体です。最初から、実入りの良い仕事だと思って始めたという、仕事への思い入れの無さが際立ちます。

 

 

「出前で遺体を風呂に入れる仕事がある。風呂に入れるのは同じだが、生きている人間よりも死んだ人のほうが実入りがいい。介護サービスの四〜五倍が相場らしい。」これまた福祉の思想にもボランティア精神にも何の関係のない、直截にして単純なビジネスの情報だった。私は膝を打ち、「おお、これだ」と声を挙げた。何の躊躇もなしに転身を決めた。仕事の性質が性質だから、念の為にカミさんに相談した。返事はあっさりしたものだった。「そうなの、稼ぎが増えるなら、それでいいじゃない」。(P37)


まさに、夫婦揃って、このドライな感じ。

 

バイトで入社した葬儀社での仕事に惚れ込み、天職としたティアの冨安社長とは雲泥の差があります。(書評 僕が葬儀屋さんになった理由

 

ところが、この著者も遺体に毎日触れ、遺族と接しているうちに、何らか不思議な「誇り」を身につけるようになります。これは葬儀に携わる人の多くが、抱くようになる感情なのですが何がその要因なのでしょうか、とても不思議です。

 

 

「ご遺族が出てきて、私たちに駆け足で近寄ってこられることがよくある。湯灌の一部始終に感激されたのだろう。なかには私たちの手をとって涙ぐまれる方もある。自分がいい仕事に就いているという満足感が湧いてくるのは、こんなときである。人さまの評価とはありがたいものだ。・・・私はこの仕事に就いてよかったと、近頃ますます思うようになった。世の中にある仕事は無数だが、人に手を握られて感謝される仕事は、そうそうあるまい。」(P87)


著者は、今では湯灌の仕事に誇りをもっており、その仕事について熱い思いを持っているようです。シャイなのか、文体はあくまでドライで、不気味なほどですが。(死体の描写が鮮烈すぎます)

 

なんとか後継者を遺したいと思っている節もあり、ときに忌み嫌われたり、偏見をもって見られるはずの葬儀ビジネス、周辺ビジネスが、実際にそれに携わっている人に
「誇り」を与えるのはなぜなのでしょう?人の「命」にも「死」にも尊さがあるのでしょうか。身震いしてしまうほどの凄惨な遺体の描写とは裏腹に落ち着いた著者の「誇り」が微妙な読後感を漂わせる不思議な一冊となっています。

 

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熊田 紺也

平凡社 2006-04-11
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