【書評】死体の経済学

【書評】死体の経済学

死体の経済学 (小学館101新書 17)

 

【目次】(「BOOK」データベースより)
序章 葬儀費用が払えずに親を山に捨てる日/第1章 「ドライアイス」からわかる葬儀ビジネスのカラクリ/第2章 エンバーミングは葬儀業界の「救世主」になれるか/第3章 四川大地震で活躍した遺体防腐スプレー/第4章 「納棺」と「死化粧」のパイオニア/第5章 “死臭”消臭剤開発プロジェクト/第6章 「死者の引っ越し」というサービス業/第7章 棺業界を席巻する「中国製品」と「エコブーム」/第8章 年間100万人超の火葬場は海へ地下へ

 

著者はジャーナリストですが、業界通の「野口」という人物、「佐野」という人物に聴きとり調査を行いながら、葬儀業界の内幕を暴露しています。以前、葬儀屋さんのブログを見た時、本書に対して、非常にお怒りでした。(適当な事を書いて、葬儀屋を貶めているという批判でした)。しかし、一読者の目から見ると、著者は大きく葬儀業界のうねりをとらえて、今後、業界が、そして社会がどう変化していくかを読み解こうとしているのだと、解釈できました。

 

全体的には葬儀業界を「俯瞰」した良書だと感じています。

 

業界内部の人は、すべてまるめてブラックも、ホワイトも「業界」を語られるのは嫌であることは間違いないのですが。私はこれまでに20冊ほど、葬儀関連本を読んでいますが、本書は、単なる内幕暴露本ではなく、葬儀業界の大きな流れをとらえ、今後業界が向かう方向を指し示しているのが興味深いです。

 

その点、こういう本とは性質が違います。

 

 

ええ、これはこれで、週刊誌的な面白さがありますが、相当割り引いて読まないといけないと思います。

 

本書も、冒頭のドライアイスの原価や、祭壇や生花のレンタルの暴利などの章を見ると、いわゆるこの手の「暴露本」と誤解され勝ちですが、そうではないと思います。確かに、仮名だらけの告発は、ソースとしては弱いですが。単に主張がなく、下世話な暴露に満ちた本ではないと思えます。私は。葬儀社の社員への聞き取りにより、著者は葬儀業界の闇を深く理解していきます。

 

葬儀社のサービスが「5つの部分」からなっているというのは、言われてみないと気づかない点です。

葬儀社が提供する「5つのサービス」

 

「この奇跡の高収益ビジネスを支える「原価」について見ていこう。まず葬儀社が遺族におこなうサービスは大きくわけて「運搬」「遺体に触れるサービス」「販売」「レンタル業」「専門業者への手配」と5つあることを知っていただきたい。」(P41)

 

「粗利の高い葬儀ビジネスだが、すべてが高収益をたたきだせるというわけでもない。実はこの5つの中にも業者にとってあまり魅力を感じないサービスがある。・・・葬儀社が真にコストをかけて、実際に収益をあげているのは「遺体に触れるサービス」と「レンタル業」ということになる:」(P44)


ちなみに「運搬」と「販売」は美味しく無いそうです。

 

上述のように、利益をあげるのは「レンタル」と「遺体に触れるサービス」です。「レンタル」では最たるものとして「祭壇」が登場します。本書で特に強調されているのは、ドライアイスと祭壇の暴利です。ただ、これは一時代前の葬儀です。今、祭壇にバカ見たくお金をかける遺族は少なくなっています。葬儀屋の口車にのって、グレードをあげた葬式をいたずらに行う人はいなくなっています。葬儀業界の内幕に関する情報が広く知られるようになったからです。このサイトでアピールしているように「直葬」を選ぶ人も非常に増えています。そうしますと、「葬儀社」も「レンタル」だけで食べていけなくなっている現状があるのです。

 

私が見積もりをとった「シンプルなお葬式」だって、「レンタル」部分はほとんどありません。通夜も告別式も無いので、葬儀屋にとって、美味しい部分はほとんど省き、お金がかから無くなっているのです。

 

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そこで、活路を見出すために、葬儀業界が今向かっている方向は「遺体に触れるサービス」で料金を上げていくことです。

 

そこで、エンバーミングや、遺体の修復技術などが、語られていきます。この視点は、私が考えていた点と同じです。私も儀式部分(通夜・告別式)にお金をかけるなら、エンバーミングや遺体保管技術にお金を払うのは納得が行くと以前から考えてきました。(遺体修復業としての「湯灌」と「エンバーミング」

 

まあ、本書によれば、エンバーミングは葬儀業界にとっても、それほど儲からないので、実際には、普及しないのではないかという論調ではありました(エンバーミングは儲からない)。現実を踏まえて、今後、どのように業界が進んでいくかが興味深いものです。さて、著者は、葬儀業界が高額な「レンタル」業者として、支持を仰げなくなってきた今、「サービス業」としていくつもの周辺分野に、ビジネスチャンスができていることを、具体例をあげながら指摘しています。

葬儀周辺ビジネスにおける第三世代

 

「従来の祭壇型の葬儀で高収益をあげてきた葬儀社を第一世代、・・・それまでの葬儀業界に疑問を抱き、「遺体に触れるサービス」に特化していく人々を第二世代とすると、この第三世代は葬儀業界はおろか、今まで「死」というものを生業にしたことがなく、単にそこに困っている人がいて、葬儀業界ではカバーできていない「市場」があることに気づいたことから参入してきた人々である。」(P149)

 

「多くの葬儀関係者が取材を拒否するし、匿名でなければ答えられないという姿勢が当たり前で、それが「死」を扱う人々の特徴でもあった。だが、この新しい世代は違う。社会に対して自分のやっていることを広くアピールして、社会の中に自分たちの仕事は絶対に必要になってくると訴えているのだ。今、「死」を扱う業界は大きな変化の時を迎えているのかもしれない。」(P182)


 

エンバーミングから始まり、四川大地震で活躍した遺体保管スプレー、納棺師、湯灌師、遺体修復業者、死臭を消す消臭剤を開発した業者、遺品整理屋、変死の清掃業者と「死」に関連したさまざまなサービスが紹介されていきます。私も全く知らなかった仕事をたくさん目にしました。たしかに、新規にこうした事業に参加する人たちにとって「死」はタブーではありません。彼らには、積極的にこういう業態をアピールしていこうという気概さえ感じます。

 

私が読んだ本でいうと、

 

 

 

どちらも、葬儀周辺ビジネスを興味深く教えてくれます。

 

著者が言うように、死に関係する第三世代の「サービス業」が時代を動かしつつあります

 

とくに本書の後半で中心的に語られている「遺品整理」、自殺現場、変死現場のような凄惨な現場を復旧させるサービスの場合は、費用も比較的高額・・・20万〜30万かかることもあるようですが、これはいかにも、当然のことに思えます。遺族にとっても、自分では決してできないことなのですから、この種のサービスに数十万を払うことは抵抗がなくなっているのです。

 

ここに、以前の葬儀ビジネスを取り巻く状況との違いが生じているということに著者は目ざとく注意を引いていきます。

 

以前は、ドライアイスを原価の何十倍で提供し、原価数十万の祭壇を何度も数百万でレンタルし、仕出し業者や坊主からキックバックを受けて・・・決して消費者には見せられない「裏側」が、葬儀業者の飯の種でした。しかし、今はそうではない。遺族すらできないこと、どうしてもできないことを、代わって行ってあげる「代行業」としての葬儀周辺ビジネスが伸びてきているのです。この費用は、消費者は喜んで出すようになっているのです。

 

これは、どの業界も同じだろうと思います。私も小売業界にいたのでわかりますが、いちいち原価を突かれるのは辛いです。なぜかといえば、ほとんど利益が出ない、時にはマイナスの商品を販売することもありますが、とれるところからは大きく利益をとり、それでバランスをとって、経営を維持していくのが商売だからです。一品ごとの利益を言えば、つつきどころは無限にあります。

 

しかし、今は、安く仕入れて高く売る、という「原価」のあるサービスが、叩かれる時代です。「原価われ」しても、必死でお勉強している業者が良心的とされ、そうでない業者はぼったくりとみなされる、これは少し極端であろうと思います。それでも消費者は今、そういう目線なのです。

 

だからこそ、葬儀関連ビジネスには今、「代行業」として、透明なサービス、何を行うのかがはっきりしていて、遺族も「お願いします」と頭を下げるようなサービスが望まれているというわけなのです。

 

業界の人にとっては「昔はよかった」という話で、今の時代の変化を辛く思うかもしれませんが、これは葬儀業界だけではありません。宗教儀式としてではなく、流通業として葬儀が認知された時の当然の結果なのかもしれません。(葬儀は宗教儀式なのかサービス業なのか

 

葬儀業界を例にとりながら、死に関係したビジネスがどんな変化を遂げていくのかを、読み解くことができる、面白い本だったと思います。少し内幕的な暴露話が聞きたい人にも、葬儀周辺ビジネスのこれからの展望を知りたい人にもオススメの書籍だと思います。

 

 

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