【書評】しがみつかない死に方(香山リカ)

「儀式」としての「葬式有用論」

このページは下記書評の一部です。
【書評】しがみつかない死に方-香山リカ

 

本書では、「孤独死」の問題に迫り、葬儀に関しては主に直葬について多くの頁を割いているけど著者自体は、ある意味の葬式必要論を持っているようでした。

 

精神医学者らしいな!と思えるひと言が記されています。

 

喪失の儀式

 

「葬儀はどうだろう。個人的には「いっさいごめん」とも思うのだが、葬儀は故人のためではなく、遺された人達の「喪失の儀式」という役割もあるのではないだろうか。フロイトは、愛着のある対象が喪失したとき、それに十分、向き合わないで「なかったこと」にすると心の回復はよけいに遅れることを指摘した。私の両親もよく「葬儀はいらない」などと言っているのだが、申し訳ないけれど、死んだ時には一応、小ぢんまりとでも葬儀を行わせてもらおうと思っている。そうでなければ、いつまでも「ああ、親はもう亡くなったんだ」という実感が持てず、そのことで受容から回復までの時間がよけいにかかりそうだからである。そんなことで時間がとられ、次のステップに移れないと、私としてもいろいろ困る。

 

だから、仏式なのか無宗教なのかわからないが、地元の葬儀社に頼み、松竹梅の「梅の上」あたりのランクでお願いして、きわめて凡庸な葬儀を行い、「ああ、お金がかかってしかたない」とか「お弁当が値段の割に粗末だった」とか「香典ってこんなに少ないものなの?」とか、どうでもいいグチをこぼしたいと思う。そうやって「なんだか死てしょうもないものだな」と思うことで、必要以上に親や親と自分との関係を美化し、悲しみを深くしてしまうのを避けられるはずだからである。」(P170-171)


フロイトを引き合いに出して、悲しみに向きあうための葬儀を「肯定」していますが、葬儀そのものには、特に意味を持たせていないのがユニークな視点です。葬儀はつまらなくて良い、何の感慨も無くても良い、そこに淡々とある「儀式」だからこそ・・これまで「生」のあった日常と、これからの日常に区切りを引くことができるわけです。

 

4章のタイトルが別れ方に縛られないというものだったわけですが、タイトル通り、著者はどんな別れ方(葬儀・葬式)をするかには一切こだわっていないわけです。
ただ、そこに凡庸でも「型」があることで、次のステップへ進めるだろうと予測しているのです。この視点と似ていると感じたのは、葬祭業者で作家の一条氏の葬儀感です。遺族の心は動揺し、不安定だからこそ、葬儀という「かたち」が必要。「かたち」の安定感を説きます。

 

 

この考え方は、「自分らしい」葬儀とか、自由なスタイルの葬儀とか、とはまた違うものです。著者の言葉を借りれば、そこには何の「こだわりもない」のです。著者は北海道育ちですが、北海道の葬儀は没個性的なのだそうです。子供の頃に自分が経験した葬儀について思い起こして語っていますが、そこには、厳粛さや悲しみがあったのではなく、ある種、どうしようもないくらいのイベント感があった・・。

 

「型」が決まっているからこそ、その中で惰性になる時間があったり、みにくい人間の性が明らかになる部分があったり、子どもながら著者は冷めた目で見ているわけです。

 

没個性的な葬儀

 

「葬儀場やお寺で型通り行われる没個性的な儀式に参列しているうちに、僧侶のお経も参列者の焼香もだいたい同じなら、遺族が涙を流すタイミングさえだいたい同じ、ということがわかってきた」(P80)

 

「いつも思うのは「悲しみ一色」の葬儀は少なく、親族でさえ場面によって激しく悲しんで泣いたりふつうに食べたり話したり、を繰り返すものだ、ということだ。1984年に公開された伊丹十三監督の「お葬式」でも、誰かが亡くなってから火葬が終わるまでの「葬儀の時間」のあいだにも、悲しみの時間の総量は実は少なく、あとはカネ、性、そして人間関係にまつわるあれやこれやが占めている、という事実がリアルに描かれていた。」(P82-83)

 


だからこそ、その「イベント」で「非日常」を演出し、次の日から淡々と毎日に戻っていける。葬式・葬儀にはそうした面があるかもしれない。そう、考えさせられました。本書は、孤独死を主に論じていますので、実際には直葬がメインで語られているのですが、葬式有用論は、ある一定以上のおじさまたちの意見かと思っていましたので、著者のような、まだ若手の作家の中に、独特な仕方での「葬式有用論」を見たのが興味深く思えました。

 

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